介護業界の人材不足を解決するには
近年、介護業界における人材不足は深刻で、そのための対策が急務となっています。
介護の人材不足の原因
介護業界で人材が不足している原因はいくつかあります。介護施設などを運営する企業は、人材不足の原因についてしっかり把握することが求められるでしょう。
採用が困難
介護業界における人材不足の大きな原因が採用が困難なことです。公共財団法人介護労働安定センターが実施した令和元年度介護労働実態調査によると、調査対象の事務所の88.5%が採用の困難さが人材不足の原因と挙げています。前年度に実施した調査では73.1%だったことを考えると、採用の難しさが人材不足に拍車をかけていることがわかるでしょう。
採用が困難な理由はいくつもあります。
まずは同業他社との人材の奪い合いになり、必要な人材が確保できない状況です。どの介護施設や事業者も人材不足を解消するために、少ない人材を多くの施設が取り合う形になっています。
さらに、他の業種と比べて労働条件の厳しさも採用を困難にしています。そのため、介護以外の業界に就職する人が増えているのも、人材不足の原因です。
離職率の高さ
介護業界の人材不足は離職率の高さも関係しており、介護業界の離職率は15.3%となっています。全業種の平均より若干低いものの、人材不足の施設から介護従事者が離職してしまうのが現実です。
介護従事者の離職に大きく影響しているのが給与の低さです。厚生労働省の調査によると介護職の平均月収は21.8万円、この金額にボーナスが70~100万円追加されるため、年収にすると約350万円前後となります。
日本における平均年収は433万1000円なので、介護職の年収は平均よりも低いことがわかります。また、この数字はあくまで平均なので、場合によっては年収200万円以下という低水準で働いている職員もおり、生活が苦しいという方もいるほどです。
人間関係
給与以外の理由は、人間関係のトラブルが挙げられます。
関わる人が多すぎるため
介護業界では一人の職員が多くの人と接しなければなりません。介護対象者だけではなく、介護対象者の家族、他の職員、医療従事者などと関わります。
幅広い人間関係を形成するので、苦手な人とも接する場面も少なくありません。また、介護サービスを提供する上で、関係する人と密なコミュニケーションをとる必要があるため、人間関係で苦労するのです。
多くの人と接する分トラブルも発生しやすく、低賃金と相まって離職してしまいます。
介護職の年齢・経験・職種が皆異なるため
介護の現場で働く職員の年齢層は非常に幅広く、20歳前後から60歳以上まで様々な人と関わります。年齢だけではなく経験や異業種経験などバックグラウンドが多岐にわたるため、仕事に対しての考え方が異なることも多々あります。
そのため、相互理解が不足していると人間関係がこじれてしまうケースが多いようです。
介護現場では介護士・看護師・理学療法士・ケアマネージャーなど職種の異なる職員がいて、視点の違いから意見の相違が生じることがよくあります。お互いが苦手意識を持ってしまうことがあるため、多様な立場の人が集まることで様々なトラブルが生じてしまうのです。
育成環境が未整備
多くの介護現場では、業務が忙しいため、新人や転職者が入ってもきちんと育成する環境が整っていないことがあります。このように、十分に仕事を教えてもらえる期間が短いと、安心して働くことができず人間関係も悪くなってしまいます。
不安や疑問が解消できないと不信につながり、精神的なストレスが蓄積され、人間関係の悪化につながるためです。
介護経験者であっても、新しい環境に身を置くことでストレスになるので、既存職員のサポートがないと安心して働けません。
人材不足の現状
介護職の人材は、具体的にどのくらい不足しているのでしょうか。厚生労働省の「介護人材確保に向けた取り組み」によると、介護職員の有効求人倍率は増加し続けています。現状で不足しているだけではなく、需要推計によると2023年で約22万人、2025年度では約32万人の介護職員が不足すると見込まれています。この問題を解消するには年間6万人の新たな介護職員を確保しなければなりません。
そのため、国も人材確保のため様々な施策を行っています。
介護職員の人材不足に対する対策
これまで介護業界における人材不足の背景や現状についてお伝えしましたが、どのような対策を行っているのでしょうか。
働きやすい労働環境を整える
介護施設で働く職員の多くは人手不足を常に感じています。一人ひとりの負担が下がるように労働環境を整えていくことで離職率の改善が狙えます。
ユニットケア
ユニットケアとは自宅に近い環境の介護施設において、他の入居者や介護スタッフと共同生活をしながら、入居者一人ひとりの個性や生活リズムに応じて暮らしていけるようにサポートする介護手法のことです。ユニットケアのメリットは入居者の尊厳や生活を尊重するだけではなく、少人数なので目が行き届きやすく、ユニットごとに過ごしやすい環境を作ることなどがあります。
自由度が高く、ギスギスしやすい人間関係を改善することで、従来の集団ケアよりも介護職員のストレス軽減につながる手法として導入が進んでいます。
IT・介護ロボットの導入
介護職員は要介護者への介護業務だけではなく、日々の日報や管理書類を作成します。多くの介護施設ではエクセルや手書きで行っており、作業の負担となっています。
これらの作業をペーパーレス化、ITを導入することで、負担軽減による労働環境の改善だけではなく、作業に費やしていた時間を介護サービスに充てることができ、施設利用者の満足度向上も期待できるわけです。
介護ロボットとは高齢者の自立支援や介護者の負担軽減に役立つロボット技術を応用した介護機器のことです。
センサー機能で遠隔地から高齢者を見守るものや、移動を支援するものなど種類はさまざま。中にはコミュニケーションを図る機能を搭載したロボットもあります。
外国人人材の受け入れ
介護人材確保のため、海外からの人材受入も取り組んでいます。政府が力を入れている施策の一つです。
政府は技能実習制度や特定技能などの制度を次々導入しています。協定を結ぶ国も増えており、インドネシア・フィリピン・ベトナム・ミャンマーなど、介護業界を希望する外国人の介護人材が今後増えていくでしょう。
外国人の雇用におけるメリットは、一定水準に達した人材を長期雇用できるという点が挙げられます。
技能実習制度の場合、1・2号が3年間、さらに3号で2年間、その後5年間の就労が可能な特定技能1号へ移行できるので、通算で10年間雇用ができます。その間に介護福祉士の資格を取得すれば永続的な在留が見込めます。
外国人人材の雇用は採用母数の増加と同時に、離職率の低下にも寄与できる可能性を秘めています。
介護職のイメージアップ
介護職にはネガティブなイメージがあり、世間の認識と実情に大きな乖離があるため、介護業界でも広報やマーケティングの視点を持つことが必要になっています。
求人票に正しい情報を掲載することもそうですが、ホームページに理念や取り組みを公表したり、世間に向けて介護の魅力を発信することで、介護業界へのイメージをポジティブにしていく必要があります。
国も介護職のイメージアップのため、勤続10年以上の介護福祉士に月額平均8万円程度の処遇改善を行う特定処遇改善加算が創設されました。
しかし、実際に8万円も支給される事業所は少なく、多くの事業者が2~3万円台となっています。また、介護福祉士の平均勤続年数は6年程度であり、支給条件の10年に満たない介護福祉士が多いのが現状です。
そのため介護施設は発信するとともに、処遇改善を受けられるような人材確保・育成が重要になってきます。
資格取得支援
初任者研修、実務者研修、介護福祉士、介護支援職員など、介護は資格に応じて介護業務の待遇が変わります。介護従事者として収入アップのために資格を取得してほしいのですが、シフトや費用の面で取得が進まないのが実情です。
国は介護福祉士を目指す人に対して養成学校の就学資金として入学時と卒業時に20万円ずつ、在学中は月5万円の貸付(奨学金)、資格取得後は貸付を受けた都道府県の施設で介護職を5年続ければ返済免除のシステムを作りました。
また、都道府県ごとに学費の変換免除制度を設けているところもあり、取得推奨制度や手当を設定する施設も増えています。
通学が難しい職員に対して講師出張を設けている会社やサービスもあり、介護報酬の増加や離職率低下のために、検討したい対策のひとつです。
給与の低さがネックとなる介護職種ですが、給与アップのために資格取得の支援を行う介護施設があれば職員にとって魅力に映ります。
非正規職員から正規職員への転換
スキルのある職員が長期的に現場で活躍できるように実施されているのが、非正規職員から正規職員への転換です。未経験のパートから仕事をはじめ、働きながら必要な資格を取得し正社員になるというキャリアパスが考えられます。
キャリアが配属先や給与に反映されることで、職員はやりがいをもって、介護に取り組めるでしょう。
人材派遣会社とのつながり
人材不足を補う対策として、介護事業所では人材派遣会社とつながりを持つこともあります。急な欠員が出た場合や職員の増員が必要になった場合、求人を行っても応募がこないことがよくあるため、人材派遣会社とつながりを持つことで人材を獲得しやすいメリットがあります。
まとめ
介護人材の不足は深刻な社会問題です。介護職員のネガティブなイメージが一人歩きしていますが、将来性は高く、やりがいのある仕事です。国が行っている施策によって、今後の待遇改善が期待できます。
これから介護業界での就職を考えている方は、ぜひ介護職員初任者研修を受講して、条件の良い求人情報を探すといいでしょう。現在、人材が不足している業界だからこそ、条件の良い求人が見つかるはずです。